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KENWOOD トランシーバ TS-440S PLLがロックしない不具合 復活作業メモ    (2022年8月21日 JA1NKY 記) 

  1993年4月から使用している HFトランシーバ (全バンド) TS−440S。出力100W機です。
  使用頻度は極めて低い機器ですが、アマチュア無線局JA1NKYの主たる送受信機です。
  カバーする周波数範囲の内、特に高周波側のPLLが不安定であることに最近気がつきました。
  今年は無線局の更新をしたばかり。これからも長期に使える様にメンテナンスをしました。
  以下はその作業記録メモです。

  < KENWOOD TS−440S 外観 >
   

   ★ 1993年から使用している HF帯 全バンド オールモード 100W送受信機。 


MEMO

1. 異常状態の発覚
 ・家の屋根のペンキ塗装工事の時に屋根上のアンテナも点検。まだ使えそうなので撤去せずにそのまま使用することに。
  滅多に電波を出さない状態のHF機(TS-440S)をこの機会に試用してみたところ、7MHzの交信中、PLLのロックが
  外れてしまった。これはまずい!!。
  急遽、TS-440Sのサービスマニュアルを読み、PLLの仕組みを学習して機器の点検と調整を試みた。

(主な異常内容)
 1) 22MHzへ周波数をアップする時、PLLロックが外れてしまう。
 2)22MHz以上の周波数では、すぐ下(10Hz)の周波数から、各群周波数の初めの xx.000MHz、xx.500kHzにアップするとPLLのロックが外れる。
 3) さらに周波数を上げると、群周波数の初めから 10kHz〜数100kHzの間でPLLがロックしない。高い周波数ほどロックしない周波数幅が大きい。
 4) 30MHzではロックしない。
 5) ぎりぎりでロックしているかの様な時(擬似ロック時)は、音声の中にブツブツ音があり、受信感度は極めて悪い。
   外部発信機(グリッドディップメータ)を信号源にして確認すると変調信号音がかすれ、Sメーターの触れも極端に小さくなる。

2. 不具合調査と修理の記録

・調査

 機器内部にヘテロダイン用の各周波数合成の為にPLLが5台装備されているが、そのうちのPLL1のロック不安定が直接の原因である。
 1) PLL1の過去の障害履歴
  - 200/3/11、半田劣化モード(温度依存断線)症状のため、KenwoodにてVCO1を修理している。(15,750円+税5%)
   当時、バリキャップ: ITT310TE x 4 、 発振用トランジスタ:2SC2668(Y) x 4、抵抗 を交換した。
  - 現在もVCO1自体は壊れてなく、適切な制御電圧範囲であれば正常に発振できる。
 2) 初めにUnLock表示のほか、スピーカの受信音の変化を聞いて、PLLロック状態の判定をしてみた。
   HF(30kHz〜30MHz)をカバーするため、主発信機であるVCO1は、4つの周波数レンジに分かれている。
   - VCO1a 正常 fosc=45,080,000〜52,549,990Hz (受信周波数 30,000〜 7,499,990Hz)
   - VCO1b 正常 fosc=52,550,000〜59,549,990Hz (受信周波数 7,500,000〜14,499,990Hz)
   - VCO1c 異常 fosc=59,550,000〜67,049,990Hz (受信周波数 15,000,000〜21,999,990Hz)
    14.5MHz直後(上),19MHz以後 x.000とx.500MHz 異常
   - VCO1d 異常 fosc=67,050,000〜75,050,000Hz (受信周波数 22,000,000〜29,999,990Hz)
    22MHz以上でx.000MHz,x.500kMzにアップするとPLLのロックが外れる。
    周波数を上げると数10kHz〜数100kHzの間PLLがロックしない。高い周波数ほどロック幅が大きい。

・メンテ作業
 1) 3段ヘテロダインの主受信局部発信機は、500kHz毎の各群周波数の繰り返しで変化し、各群周波数は10Hzステップ刻みで作られる。
  局発VCO1は、受信周波数を x.999,990→x.000.000Hz、 x.499,990→x.500.000Hzに変化するとき
  ループ内にある周波数ミキサ(MIX1)の入力周波数(PLL2で作られる)39.05MHz→36.55MHzにジャンプ(PLLの分周数は+1増加)する仕組み。
 2) 受信周波数が21.99999MHz→22.000000MHzに変化するときは、VCO1cからVCO1dに切り替わりVCO1dの制御電圧は
  最低→最高に変化する必要がある。(下記 グラフ参照)
  しかしこの時、VCO1dの制御電圧は低→高に変化しないことが22MHzでロックしない直接の原因である。
  なお、22.095Hzにロックしたときの制御電圧(Vvco1)は5.45Vであった。(正常の値)
 3) そこで、VCO1-PLLのループ内にある周波数ミキサ(MIX1)IC14(SN16913P)の出力波形に正常ロックを妨げる信号成分が
  多区入っているためではないかと疑い、MIX1の2pinにある39MHzのスプリアス低減用VR2を変化させて、バイアス電圧を調整用してみた。
  本来は、スペアナで測定しないといけない調整箇所だが、スペアナが無いので実験的に変更。
  電圧は2.88Vでり、VR2で2.78〜3.4Vにしても大きな改善がなかったのでVR2を元に戻した。
 4) 次に、L21のコアを少し(角度20度くらい)左に回し、VCO1dの自励発振周波数を下げてみた。
  すると、22MHzでPLLは周波数をpull-inするようになり、ロック時のVvco1は22.000Hzで5.30V、22.050で5.28Vであった
  この処置で、28MHz位までの周波数で連続受信ができるようになって、14MHzでの交信も成功した。
  しかし弊害が残り、29MHz以上ではまったくロックしない。
  加えて、十分暖気運転した後はこの改善された状態になるが、室温まで冷やすと従来と類似のロックしない現象が残った。
 5) やはりMIX1の入力信号の改善が必要だ。
  手持ちの測定器で調整できそうな部分を考察すると。。
   @MIX2 IC12(SN16913P)への入力波(TP-7)、
   AMIX1 IC14の入力波(TP-8) の調整である。
  そこで、受信周波数= 14.250MHZの時の TP-7、8の信号振幅電圧をオシロスコープでモニタして、
  TP-7: T10,T11,T12を、TP-8: T13,T14,15 もコアを回転しながら、最大振幅に調整した。
  各振幅に最も影響があったのは、T11であった。TP7の振幅は20%位増加した。

・PLL基板(T10〜T15の周辺の写真)
   
   ★ 角形のシールドケース 右下から左に向かって T10〜T15)。 プローブはTP-7。右は周辺の回路図。

・RF基板(VCO1の部分の写真)
     
   ★ 周波数で4分割されたVCO1。黄色のポッドがT21(VCO1dの発振コイル) 右の写真は反対方向から撮影したもの。

       ★ ← 左は周辺の回路図。


・PLL基板 VCO1の発振周波数制御電圧確認ポイント: TP10(R138)
   
   ★ TP10は R138のリード線。 


・波形写真 (オシロ 菊水COR5541(帯域40MHz)、表示スケール V: 20mv/div、H: 10ns/div)

<TP-7>
受信表示 14.000MHz 受信表示 14.250MHz 受信表示 14.499MHz
信号周波数: 30.675MHz 信号周波数: 30.425MHz 信号周波数: 30.175MHz


<TP-8>
調整前 14.000MHz 受信表示 14.000MHz 受信表示 14.250Hz
信号周波数: 30.675MHz (H:100ns) 信号周波数: 39.050MHz 信号周波数: 38.800MHz


・VCO1(a〜d)の発振制御電圧と受信周波数の関係
   
   ★「VCO1」にある4つのVCOの制御特性(実測値)。
     許容ダイナミックレンジがおおよそ2V〜6Vの間になるようにT21〜T24のコアを調整。


3 結果
  - 全バンド、問題なく送受信ができるようになりました。
  - 合わせて最大送信出力電力を確認しました。 28MHz :50W, 他: 100W。


完成・復活です。
  <全てが スムーズに機能するようになりました>


4、KENWOOD TS-440S 仕様概要
項目 仕様
型式 All Mode Quad Bander
周波数帯
Receive 0.1000 ~ 30.0000 MHz
Transmit 1.8000 ~ 2.0000 MHz
3.5000 ~ 4.0000 MHz
7.0000 ~ 7.3000 MHz
10.1000 ~ 10.1500 MHz
14.0000 ~ 14.3500 MHz
18.0680 ~ 18.1680 MHz
21.0000 ~ 21.4500 MHz
24.8900 ~ 24.9900 MHz
28.0000 ~ 29.7000 MHz
IF
1st 45.050 MHz
2nd 8.830 MHz
3rd 455 kHz
電波形式 CW / FSK (RTTY) / LSB / USB / AM / FM
出力 SSB・CW 100W、AM 50W
ANT/インピーダンス 50Ω
電源電圧 12V〜16V (基準 13.8V)
                    (正価 208,000)円 (1986年当時)

5. TRIO TS-440S 資料 (下記を参照)
   ・取扱い説明 (PDF)
   ・サービスマニュアル(Service Manual) (PDF)

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